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ロシアによるIS空爆で、シリア情勢は大きく変わった [世界の動き]

 9月末から始まった、ロシアのIS攻撃は、シリアと中東の情勢を大きく変えてしまった。
 どのように変えたか、整理してみた。

1)成果を上げたロシアのシリアIS 攻撃

巡航ミサイル.jpg
 < ロシア国防省が公式サイトで公表した巡航ミサイル発射の映像(10月7日)=AP>

 9月末からロシアによるIS空爆は多大な成果を上げた。 
 シリア国内の選定した目標に対する最初の四日間の精密照準爆撃で、ロシアの戦闘機が発射したKh-29L空対地レーザー誘導ミサイルは、標的に、2メートルの精度で命中し、主要なIS司令センターや弾薬庫や、重要インフラを破壊することに成功した。ロシア国防省の写真入り公式報告によれば、Su-34爆撃機が重要なIS前哨基地である、アル-ラッカ州アル-タブカ近くのIS特別訓練キャンプと弾薬庫を攻撃した。“弾薬庫が爆発した結果、テロリスト訓練キャンプは完全に破壊された”とロシア国防省広報担当官は述べた。ロシアSu-25戦闘機は、シリア、イドリブの「イスラム国」訓練キャンプを攻撃し、爆発物ベルト製造作業所を破壊した。
 アルカイダ系列のアル・ヌスラ戦線等、他のテロ集団の主要前哨基地も攻撃したと発表した。

 空爆だけでなく、ロシアが巡航ミサイルを実戦で使用した。ロシア国防省によるとミサイルは約1,500キロメートル離れたカスピ海に展開している4隻の巡洋艦から計26発発射。11カ所の標的をすべて破壊した。
 ロシア軍は10月7日以降もシリア北部や中部での空爆を継続。9月30日の空爆開始からの8日間で112カ所の軍事関連施設を破壊したと発表した。
 ロシアの「イスラム国」空爆は相当な成果をもたらしている。

 「イスラム国」のほか、「アル・ヌスラ戦線」「ジェイシュ・アル・ヤルムーク」のなどのテロ組織の戦闘員3,000人以上が、シリア政府軍の攻撃とロシア空軍の空爆を恐れて、シリアからヨルダンへ逃げたと伝えられている。

 ロシアによるIS空爆は、アサド政権の要請によるものであり、国連事務総長と相談の上で実施した。巡航ミサイルによる攻撃を前に、ミサイルが通過するイラン、イラク政府に事前に了解を取り付けている。したがって、ロシアの行動は国際法を遵守する姿勢を見せている。

 イラク当局者らは、米軍による対イスラム国作戦に不満を募らせており、今後はロシアとの協力を強める考えを示している。ロシア、イラン、イラク、シリア4か国はIS 掃討のための情報を共有することでも合意した。今回の組織の立ち上げは、イラクで米国の影響力が低下しつつあることを示している。イランは地上戦部隊、精鋭部隊である革命防衛隊の派遣も決めた。ロシアに呼応し、イランは地上部隊を送ったと伝えられた。シリア政府軍は、反政府勢力が支配する第2の都市アレッポ攻略を開始した。アレッポはトルコ国境に近く、ISの兵站はトルコ国境に開かれている。アレッポを攻撃すればISの兵站を絶つことができる。
 トルコ国境近くの北西部シリアでのIS掃討が、今後の情勢を決めるだろう。

 「シリアで我々は国際法を尊重した戦いを展開しており、国連憲章に厳格に遵守して行動している。我々はシリアの合法的な政権から、テロとの闘いに対する公式的な支援要請を受け、これを受理した。」(キンシャク・ロシア駐シリア大使)

 昨年9月以来、アメリカはISを攻撃するとしてシリアを空爆したが、事前にシリア政府の要請があったわけでも国連の承認を得てのことでもなかった。独断で他国の領土を空爆した。これは国際法上、侵略である。
 その責任を回避するため、混乱の現実がアサド政権の責任であるとして、アサドの退陣を要求するとともに、反政府勢力に武器援助を行っている。そればかりか、米国特殊部隊の派遣も公言している。
 これは内政干渉であり、侵略であり、明確な国際法違反である。

2)ロシアの空爆の成果は、米国の空爆がアリバイであることを暴露した

 一方、ロシアの空爆によって、アメリカが過去1年半ほど「イスラム国」を空爆してきたとする行為は、真剣に行なわれていなかった事実が明白になった。「1年半で16,000回も空爆し、そのために5億ドル使った」(ファイナンシャル・タイムズ)とされる。わざと外して空爆してきたのではないか? というシリアやイラクの人たちの「疑念」は、疑念ではなく事実であることが、暴露されたのだ。

 また、米国がISの兵站を封鎖しないことにも疑いが深まっていた。ISの資金源の大半は、盗掘した原油の販売収入による(月約48億円)。この収入がなければISは戦闘を継続できない。盗掘原油は、エルドアン・トルコ大統領の息子が経営する会社に買い取られ、イスルラエル経由、またはARAMCO経由で販売されている。

 米国が、油田や輸送トラックを空爆すれば資金源を絶つことは容易にできた、あるいは販売を止めれば容易に資金源を絶つことができた。空爆よりももっと簡単である。しかし、米国は1年半以上も放置してきた。そもそもISを根絶する意思がないことが暴露された。(かつて米国は、イラン・モサディク政権が石油会社国有化したとき、販売を止めモサディク政権を苦境に陥れた。)
 
 ロシアの空爆は、このようなアメリカの空爆がアリバイづくりであったことをも暴露したし、同時にそもそもアメリカ政府はISを支援しており、ISはアメリカ政府の「駒」ではないかと疑う中東の人々の疑念が、ほぼ確信にかわったのである。
 
3)あわてた米国、影響力を失った

 「アサド政権」の打倒を最大の目的としているアメリカとイギリスは、「激しい怒り」をあらわにして、ロシアを非難している。しかし、その論拠が怪しいし、慌てぶりだけが目立つ。

 ロシアからのIS空爆協力呼びかけに対し、カーター米国防長官は10月7日、「ロシアが何を言おうと、我々はロシアと協力することには合意していない」と強調。かろうじて非難の根拠として「IS掃討をうたいながら、穏健派反政府勢力を空爆した」と述べた。
 カーター国防長官は、「穏健派勢力とはどの団体だ」と聞かれて、答えることができなかった。

 シリアやイラクでは、ISを操っているのはアメリカだと皆知っている。知らないのは欧米日の国民だけである。欧米日のマスメディアは米政府の宣伝をそのまま垂れ流し、嘘をついてきた。欧日政府も追従した。ロシアの空爆は、米日欧マスメディアの嘘、腐敗ぶりも暴露した。

 本当のことを暴露されて慌てている米国の姿が映し出された。カーター米国防長官の怒りは、真実を暴露されたことに発している。

 今問題となっているのは、穏健派反政府勢力? そんなものが存在するのか、という疑念である。

 シリアの「穏健派反政府勢力」=自由シリア軍は米国の軍事援助を受け入れており、アメリカ政府の「駒」になっている。しかも「自由シリア軍」の多くはISに合流しており、ISと自由シリア軍の区別さえつかなくなっている。米国の軍事支援は、ISに流れている。米政府機関DIAもその事実を認めている。

 ガーディアンは記事でこう報じている。「自由シリア軍の反政府派連中は、イスラム原理主義集団アル・ヌスラ戦線に寝返った
 
 実際ロシアは、ISを爆撃したが、アメリカ政府が怒っているのは自分たちが支援してきたISを爆撃したからである。ただ、その事実を、公に口に出して言えないのでカーター米国防長官はただ怒ってみせたのである。

 要するに、米国が慌てたのは、密かに支援してきた自分のテロリスト連中を、ロシアが空爆し、その効果を台無しにしたからだ。

4)ロシアの空爆とシリア連合政府の提案

 プーチン大統領は、9月29日国連演説で、「シリアの合法政府への支援、リビアにおける国家構造の再建、イラク新政府への支持、そして幅広い国際な反テロ連合の結成を呼びかけ、そこで国連の果たすべき役割」を述べた。プーチンは国連の理念にしたがってシリア問題に対処すべきだと提案した。

 ISは住民ではなく「外国から来た武装組織」であり、テロを繰り返している。ISによるシリア侵略であって、「内戦」ではない。ロシアはシリア合法政府アサド政権の依頼により、侵略者ISを掃討することを、国連の果たすべき役割、理念として主張している。この主張を、陰でこっそりISを支援してきたアメリカ、イギリス、イスラエル、サウジアラビア、トルコは、公に反論することはできない。

 プーチン大統領は、IS掃討だけでなく、「その後のシリア連合政府構想」を提示し、米国やサウジアラビア、トルコなど関係国と協力を呼びかけている。表向きこれらの諸国は断る口実はない。実際に、ISを利用している米国、トルコ、サウジであり、これらの後ろ盾、黒幕と交渉しなければ事態は解決しないことを、ロシアは知ったうえで提起している。
 ロシアの権威は高まった。

5)欧州は態度変更を迫られる

 これまでEUは、アメリカ政府のシリア・アサド政権退陣要求を支持し、反政府勢力を支援してきた。その結果、シリアからの大量の難民に苦しんでいる。EUに難民の洪水を解き放ったオバマ政権の狙いは、実に極悪非道である。EUは米国に追随したから、「しっぺ返し」を受けた。難民問題を通じてEUを衰退させようとするオバマの恐ろしい狙いを、遅ればせながら認識したのである。

 IS掃討と次のシリア政府構想だけが、難民問題を解決する唯一の方法であることを、EUは理解した。 したがって、EUはアメリカ政府に追随してきたその態度の変更を迫られており、ISを撃退した後のシリア政府構想についてのプーチンの現実的な提案に興味を示している。

6)シリアやイラクでロシア支持が広がる

 ロシア軍が攻撃しているISにしろ、アル・ヌスラにしろ、シリアの体制転覆を目的に雇われた戦闘員である。米国が武器支援し、サウジ、トルコ、湾岸諸国が資金を出している。

 シリアやイラクは、ISなどの武装勢力によるテロ、代理戦争に苦しんできた。ISは雇われた戦闘員が外国から来て攻撃しているのであり、住民は支持していない。「内戦」でさえない、内戦とは、国内の反政府勢力と政府間での戦争だが、ISは住民ではなく外部から来た武装勢力である。

 この「代理戦争」はアメリカ政府好戦派(=ネオコン)が、アフガン戦争以降、採用してきたやり方、やり口である。リビアでは成功した。NATOとIS・アルカイダ系武装組織が実際に協力し、カダフィ政権を倒した。リビアを崩壊国家にした後、資源を略奪し、人々を無権利状態に陥らせ、新自由主義が支配するのである。
 
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 ロシアの空爆を、シリア政府だけでなく、イラクやイランの政府、さらにクルド勢力も歓迎しているが、シリアの体制転覆を目指している国々=アメリカ、サウジ、トルコ、湾岸諸国は不快感を隠していない。

 ロシアのIS空爆は、不当な外部からの武力介入、武装攻撃の撃退であり、シリア政府、イラク政府だけでなく、シリアやイラク国内、さらには中東で広く支持を集めている。
 それと裏腹に、シリア国民、イラク国民は、アメリカを主とする連合軍のIS 空爆は「役に立たない」、ISの後ろ盾はアメリカだ、と明確に認識されつつある。

 アメリカ政府はこれまで「ISを空爆する」と表明してきたが、表向きの発言であり、実際のところ裏でISを支援し、シリアを内戦状態して崩壊国家にすることを目的にしてきた。

7)思いのほかシリア国民の支持が高い「アサド政権」

 ところでロシアは、「アサド政権」を支援し、政権の崩壊を防ぐ意志をはっきりさせている。「アサド政権」の打倒を目標にしているアメリカには絶対に許すことのできない暴挙として映る。このため欧米のメディアでは、国民を残虐に抑圧する独裁政権の「アサド政権」こそ、「イスラム国」のようなイスラム原理主義勢力が拡大した原因であり、国民の支持を完全に失った「アサド政権」の打倒こそ急務であるとのキャンペーンを展開している。

 ところが、「アサド政権」の国民の支持率が思っても見ないほど高い事実が次第に明らかになった。2012年、カタール政府は世論調査機関と契約し、「アサド政権」の支持率を調査した。その時の支持率は55%であった。

 2015年9月に英大手の世論調査機関『ギャロップ』が調査したところ、圧倒的に多数のシリア国民がアメリカこそ「イスラム国」を支援する敵であると認識している事実が明らかになった。調査したのは西側の商業機関であり、調査結果にアサド政権の「圧力」は及ばない。

 シリアから大量の難民が出国しているが、彼らはアサド政権を支持していない、あるいは拒否して出国しているのではない。 外国からの武装勢力が戦闘状態を作り出し生活できないから、止むを得ず逃れ出国しているのである。

 アサドが退陣するかどうかは、シリア国民が決めるべきである。アメリカやイギリスに、サウジや湾岸諸国に、決める権利はない。

8)イスラエルは?

 アラブ世界で、現在のところ、エルサレム解放を掲げているのは、イラン、シリアだけになっている。サウジや湾岸諸国はもはやそのつもりはない。イスラエルにとって、シリア・アサド政権を退陣させ、混乱した崩壊国家にするは、イスラエルによるアラブ侵略を推し進めることであり、脅威を取り除くことである。そのために、イスラエルはシリアの反政府武装勢力を支援している。

 イスラエル政府はアサド体制打倒を要求し、そればかりか倒すためならアル・カイダ系武装集団と手を組むと公言している。実際に負傷したアル・ヌスラ戦士がイスラエルの病院で治療されている写真が暴露された。

 イスラエルが、アサド政権打倒のため、米国、サウジやトルコ、湾岸諸国と協力している事実も明らかになった。「アラブ対イスラエル」の対立構造がすでに変化してしまったこともはっきりしたのである。(イスラエルは、2014年ウクライナ・ヤヌコビッチ政権を武力で打倒したネオナチ、反ユダヤ勢力を支持した。現代では、シオニズムも変質している。)

 ただイスラエルは、今回のロシアのIS空爆、特にカスピ海のロシア軍から発射された巡航ミサイルが、正確にISの司令部や武器庫を破壊したのを見た。もちろんこの巡航ミサイルはイスラエルにも届く(航続距離2,500km)。ロシア軍の武器の威力に恐怖したことだろう。

 10月18日、シリアの領空を侵犯しようとしたイスラエルの戦闘機をロシアの戦闘機が要撃、追い返したとイスラエルやレバノンで報道されている。国境を越えて侵入した場合は攻撃すると警告した。イスラエル軍はこれまでISなどシリアの体制転覆を目指す戦闘集団を助けるため、国境を越えシリア政府軍側に対する空爆を繰り返してきた。侵略を繰り返してきた。ロシア戦闘機は、そのような攻撃・侵略は許さないと警告したことになる。

 ロシアはこのような対応を、国連の理念に基づいて実行したと主張している。

9)今後?

 焦点は、トルコ国境地域の戦闘の推移にある。ロシアが空爆し、シリア政府軍がアレッポやラッカに向けて支配を拡大している。ISの本拠地ラッカ、ISの支配地域は、いずれもトルコ国境近くにある。
 ISや反政府武装勢力は、トルコ国境に拠点を置いている。なぜならば、トルコ国境は武装勢力にとって兵站線が開かれているからである。
 アレッポやラッカなどの地域の戦闘の推移、反政府勢力をトルコ国境からどれだけ切り離すかどうかが、今後の焦点になる。ISの力を削ぐには、兵站を閉じることである。

 ラッカを中心とするシリア東部のISは弱くなり、イラクに越境逃避するだろう。イラク政府はロシアと協力しイラクのIS 掃討をはかるだろう。イラク政府はすでにロシア軍の空爆支援を受けたいと公式に表明している。この時点で、シリアは内戦後の再建と政治協議の時期に入り、戦闘の中心はシリアからイラクに移るかもしれない。

 イラクでは議会が、ロシアにISISの拠点を空爆してもらうことを依頼する決議を10月中に可決することをめざしている。米軍司令官はイラクのアバディ首相に会い「ロシア露軍に支援を頼むなら、米軍はもうイラクを支援しない」と通告した。イラク軍の司令官は「役に立たない米軍の支援を受ける必要はもはやない」と断言している。

 いずれにせよ、シリア問題での中東におけるロシアの権威は高まっており、シリア問題解決に向けてロシアはアメリカ、サウジ、トルコ、イランを含めた会議を呼びかけている。それは国連の理念に従った線上での提案であり、各国とも拒否することはできないであろう。また、シリアは合法政府であるから、ISの力が破壊されれば、アメリカもイギリスもアサド退陣を要求できなくなるだろう。IS掃討後に、アサド政権も含め、シリア国民連合政府形成に参加する団体、組織が集まり、次のシリア政府を形成するプロセスが始まるだろう。
 そしてこの地におけるアメリカの権威は、大きく後退するだろう。 (文責:林信治)


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アンタッチャブル

米国は、第2次大戦後の世界最大の帝国主義国家であり、米国の侵略に泣かされた国・地域は非常に多い。米国の最終目標は、NWO(世界帝国)の樹立にあるが、その一プロセスとして、中東の壊滅を狙っている。しかし、忍び寄る米国の弱体化と、ロシア・シリア・イラク・イランの連合勢力と、難民問題の根源が米国にあることに気づいてきたEUとの協力により、米国の意図の実現は潰されるであろう。
by アンタッチャブル (2015-12-12 01:01) 

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