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?? 「9条は日本人がつくった」?? [現代日本の世相]

9条は日本人がつくった? 
だから押しつけ憲法ではない??

1)半藤一利「憲法9条は日本人がつくった」?

 半藤一利氏は2013年6月、「憲法9条は幣原喜重郎がマッカーサーに提案した」ことをもって、マッカーサーではなく日本人がつくったと指摘し、「押しつけ憲法だから改憲だ」という自民党の主張に反論している。半藤氏は『文藝春秋』編集長を務めた文芸評論家であるが、その戦争体験から、安倍政権の改憲の動きに反対している。
 護憲グループのなかには、この半藤氏の論拠、「押しつけではない、日本人がつくった」を利用しようとする人もいる。
 半藤によればその根拠は、マッカーサーは、「幣原が提案した」と語っており、幣原は、「自分がつくった」と語っていないものの、否定はしていないからだとしている。そして、幣原が9条を持ち出した背景は、1928年のパリ不戦条約の精神であろうという半藤の解釈を披歴している。不戦条約は、第一条において、国際紛争解決のための戦争の否定と国家の政策の手段としての戦争の放棄を宣言しており、調印に関わった幣原は、同条項の影響を強く受けていた、敗戦に際し「この精神を取り戻す」べきだと考えた幣原の提案に、マッカーサー氏は感動し、同意したという歴史解釈を披歴している。

2)「報道ステーション」で幣原説を報道

 テレビ朝日「報道ステーション」が2016年2月と5月の2回にわたって、憲法9条の発案者は当時の首相幣原喜重郎であるという説を取り上げ、半藤一利氏と同様に、「日本国憲法は日本人がつくった、押しつけ憲法ではない」と主張し、注目を集めた。
 根拠として、1957年に岸信介首相(当時)が作った憲法調査会の録音データの中に、幣原発案説を裏付ける証言があったと指摘した。第9条の発案者は?という質問に対して幣原自身が、「それは私であります。私がマッカーサー元帥に申上げ、第9条という条文になったんだ」と語っているという。
 さらに5月3日の放送では、幣原の盟友・大平駒槌が幣原から直接聞いた話を記録したノートでも、幣原がマッカーサーに提案したと書かれているという。

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<幣原喜重郎>

3)幣原説は正しいか? 

 マッカーサーは、「幣原が提案した」と語っているが、マッカーサーの回顧録は後の時代から自身を正当化する発言や記述が指摘されており、「マッカーサーが語った」ことをそのまま根拠にすることはできない。マッカーサーは、憲法草案が発表された当時、占領軍が草案を起草した事実を、極東委員会に対しても、日本国民に対しても、隠さなければならない立場にあった。
 幣原は、個人として行動したのではない。1945年10月には首相となり、天皇の側近としてマッカーサーと交渉したのであって、幣原個人の考え(=9条)をマッカーサーに伝える立場になかったし、その権限も持っていなかった。幣原はこのとき、天皇への戦犯追及を絶対に阻止し、何としても天皇制を存続させようと交渉したし、そのためには東条と軍部のせいにして責任追及を乗りきろうとした。これは、天皇と幣原を含む側近グループの公式の政治的立場でもあった。このような歴史を忘れてはならない。憲法9条、すなわち旧日本軍の武装解除とこの先の戦争放棄、戦力の不保持は、1945年敗戦直後において天皇制存続のための条件であり、裕仁は天皇制維持のためこの条件を受け入れたのである。

 幣原が、パリ不戦条約の精神に感化されたとする半藤の解釈は、現実の政治を離れた牧歌的な歴史解釈である。
 しかも「憲法9条は日本人がつくった」と勝手に言い換えている。「日本人」ではない。マッカーサーと交渉したのは、東条のせいにして、天皇への戦犯追究を回避し天皇制を存続させようとした天皇と側近グループであると、正確に規定しなければならない。日本人とあいまいに書いてはならない。幣原にとって9条は目的ではなく、天皇制存続のための条件なのだ。それを取り違えてはならない。

 当時の内外の政治状況からすれば、憲法草案を、マッカーサー占領軍が起草したとするのは都合が悪い。日本側、すなわち当時マッカーサーと会見した数少ない日本人である幣原が提案したことにする必要があった。
 半藤の新しい解釈は、敗戦直後の、世界的な情勢の考察が欠けている。

4)敗戦直後、裕仁と天皇周辺のパワーエリートたちは、どのように振る舞ったか?

 敗戦直後、天皇周辺の権力者たちにとって、天皇への戦犯追及を避け、天皇制を維持することこそ、最重要な課題であった。それは裕仁本人の意思でもあった。東京大空襲などの日本人の戦災死、被害、原爆による民間人の大量死、被害などは、深刻だけれども、天皇と権力者は、戦争であれば避けることはできない犠牲であると考えており、それよりも重要なことは「国体護持=天皇制の存続」であった。ポツダム宣言を受け入れ降伏する際にも、敗戦直後においても、変わらなかった。

 そのために敗戦直後、天皇周辺がとった対応は、東条英機、軍にすべての責任を負わせて、天皇の戦犯追及から逃げおおせ、国体護持=天皇制の維持を目指した。裕仁は退位さえも拒否した。敗戦の1945年、裕仁と側近たちは、そのように対処することにしたし、実際に対処した。幣原はその政治的目的の中で動いている。(幣原説を唱える人は、幣原の個人的考えを実行したかのように描き出している、歴史家として失格である。)

 裕仁と天皇周辺の権力者たちは、敗戦から1945年末までに、マッカーサーと交渉し、天皇の戦犯追及をしないこと、天皇制維持の確約を得た。その結果が、日本国憲法でもあるのだ。天皇裕仁は、日本国憲法を受け入れ(=天皇制維持を約束されたも同然)、その際にマッカーサーに感謝を表明している。

 したがって、裕仁は「押しつけ憲法」などと現憲法を批判したことは一度もない。感謝して受け入れたのが歴史的事実である。そのことをまずきちんと確認してしておかなくてはならない。安倍晋三や自民党・日本会議の政治家たちは、現憲法を「押しつけ憲法」と非難しているが、天皇裕仁の意に反しているのである。

 日本国憲法をよく見なければならない。憲法9条はその前の1条から8条、すなわち天皇制維持と一体である。天皇制を象徴天皇制として維持したうえで、9条、すなわち戦争放棄と戦力不保持が述べられている。旧日本軍に責任を負わせて、日本軍は武装解除し、戦争放棄する。裕仁は責任を負わないで天皇制は維持する。武装解除した後、天皇制を共産主義の脅威から護るのは米軍と米政府ということになる、少なくとも裕仁はそのように認識した。そのためには米軍は日本にいてもらわなければならない。のちに裕仁は沖縄を米軍に差し出すのである。

 憲法9条を提起したのは幣原ではない。幣原には、平和主義や国民主権の思想はない。あったとしても、天皇を戦犯追及から守るため東条と軍び責任を負わせて武装解除させ、天皇制維持のための「方便」の一つである。そのためにマッカーサーとの間で打ち合わせた芝居であった。それ以上に評価してはならない。

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<マッカーサーと天皇裕仁、1945年9月27日 第一回会談>

5)マッカーサーとアメリカ政府は?

 マッカーサーとアメリカ政府にとって、重要だったのは、米国のイニシアティブで日本を占領支配し、アメリカの同盟国にすることだった。そこにソ連の影響を排除しなければならなかった。敗戦直後の世界情勢がそこに反映している。すでに対ソ戦は始まっていた。
 マッカーサーはあくまで「連合軍司令官」であり、形の上では極東委員会が日本の軍国主義・ファシズムを払拭し再出発させる責任を負っていた。極東委員会は、日本が二度と戦争を引き起こさないように、軍国主義、ファシズムの根源である軍の解体、天皇制・財閥の解体、地主制度の廃止・農地解放、日本社会の民主化、国民主権の国家として再出発することを要求していた。

 しかし、マッカーサーにとっては何よりも、ソ連やオーストラリアなど極東委員会が日本占領の方針・方向を決める前に、アメリカによる日本の再生、支配、占領の実績をつくってしまおうとした。極東委員会にイニシアティブをとらせないために、直前に急いで日本国憲法を制定させて、日本はすでに自力で民主化に踏み出した実績をつくり、極東委員会に「介入」させないようにした。その結果、米軍による日本の単独占領支配を実現し、そのことで後に日本をアメリカの同盟国にしたのである。アメリカ政府からするならば、これはマッカーサーの第一の「功績」である。

 マッカーサーは、軍に責任を負わせて解体しながら、日本の支配層と官僚、警察、司法などの支配機構をそのまま利用することにした。従来の支配機構を利用するには、その頂点たる天皇と天皇制を利用すべきと判断した。マッカーサーは実際にその通りに実行した。そして、日本国憲法はマッカーサーの構想とも矛盾していないのである。

 日本を朝鮮、台湾の背後に位置する対ソの根拠地にする、その占領支配をつくりあげていくうえで、既存の権力=天皇を利用することはマッカーサーにとってきわめて「合理的」であった。占領軍=米軍、米国への反発は、天皇の権威を利用し抑えることができた。占領軍の戦力さえ当初の予定より大幅に削減できた。

 マッカーサーにとって憲法9条は、日本軍を武装解除し、米軍が軍事支配するのだから、何ら問題はなかった。決してマッカーサーの「平和主義」「理想主義」を表現しているわけではない。

※「マッカーサーは9条を含む憲法をつくるとき、理想主義者になった。そのあと、普通の「常識」に戻った」。(ダグラス・ラミス『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』)。このように書いている人もいる。これもまた、牧歌的な,能天気な解釈だろう。
 マッカーシズムのあとに育ったアメリカ知識人に典型的に観察される歴史認識を欠いた解釈である。


6)日本国民にとっては? 


 日本国民は、日本国憲法を制定する過程でほとんど関与していない。そのイニシアティブをとってはいない。

 しかし、日本国憲法、憲法9条が公表された時、これを熱烈に歓迎し受け入れた。それはマッカーサーや天皇裕仁の意図を超えて、熱烈に歓迎し支持した。戦争の時代を過ごし、家族の誰かが戦死し、また空襲や原爆で多くの人々が死傷した。戦争中の窮乏生活は我慢がならなかった。そのような日本国民は、国民主権、平和主義の憲法を熱烈に歓迎し支持したのである。そのあとも日本国民の平和志向や平和運動は9条を護り続け、平和運動は護憲運動と一体化した。9条は、マッカーサー・米国政府や天皇の意図を超えて、日本国民に支持され、平和を希求し戦争被害・原爆被害を告発してきた歴史をつくり上げてきたし、憲法擁護運動は、戦後日本社会をつくりあげてきたのである。そのつくりあげられてきた戦後の歴史のなかに、私たちは生まれている。その現実を無視するわけにはいかない。

 ただ、9条を擁護する日本国民や平和運動は、9条と一体であった1~8条、すなわち天皇制条項への批判を、まったく不十分にしかしてこなかった。

 日本国憲法はそもそもその出発から、当時の歴史的な背景に規定された矛盾を抱えているのである。憲法の基調は、平和主義、国民主権、基本的人権の尊重であるが、平和主義や国民主権とは反対物である天皇によって象徴されている。天皇と天皇制は、天皇主権=独裁=民主主義の反対物であり、また戦争、特に明治以降の侵略戦争と結びついた「平和の反対物」である。そのようなもので新憲法を象徴する合理的な論理は存在しない。

 戦後日本社会では、この矛盾を批判すること、あるいは言及することさえも、多くの場合、避けてきた。憲法擁護の平和運動内でもほとんど触れてこなかった。マスメディアは絶対に触れない。天皇制批判にたいして、NHKは絶対にやらない。真実を明らかにする意志が欠けている、歴史認識の中で天皇制要因を、勝手に削除して報道するのが日本のジャーナリズムとなっている。

 国民の多くも触れない。平和運動団体の多くも触れない。明白に日本の平和運動の欠陥であるが、誰もそのことに触れようとしないで、「9条を守ろう」と、こう主張してきた。1~8条と、9条とを切り離して強調したり、主張しても何も問題ないという判断がそこに見える。もちろん、決して切り離すことはできない。

 日本国憲法、9条は、決して天から与えられたものではない。第二次世界大戦の結果、ファシズム、日本の軍国主義が敗北し、平和を希求する世界中の人たちの犠牲と戦いがあって、もたらされた。しかし、戦争で多大な犠牲を強いられたもののファシズムや軍国主義と戦わなかった日本国民の多くにとっては、日本国憲法、9条はまるで天から授かったもののように思えたし、未だに思っている。

 裕仁は新憲法制定に際し、マッカーサーに感謝を表明している。天皇制を存続させてくれたからだ。裕仁が感謝して受け入れたことから、憲法は押しつけ憲法ではないと言えよう。しかしそのことは、「押しつけかどうか」が本質的な問題ではないことも同時には示している。

 また、日本国民は、憲法起草の段階ではとんど関与していないが、草案が公表された時、日本国民はこれを熱烈に支持した。国民が支持し受け入れた時点で、押しつけ憲法ではないし、押しつけは問題にならない。それで十分なのだ。「押しつけ憲法ではない」と主張するために、そもそも幣原説は不要なのだ。

 憲法9条を擁護するためなら、どのような理論も解釈も利用すべきという御都合主義、プラグマティズムは感心しない。「幣原が9条を提案した」という説が、自民党や右翼の「押しつけ憲法」だから改憲という主張への反論になると考えるのは、あまりにも政治的に幼いであろう。

 半藤氏や「幣原説」を唱える人たちが、改憲に反対していることは尊重し敬意を表するが、御都合主義の歴史解釈や説明には賛成できない。

 日本国民ではなく、幣原喜重郎(=天皇の側近であり天皇の政治的意思を実行した敗戦直後のパワーエリート)が、自分が提案したと書き残したから、「押しつけ憲法ではない」と言えるのではないのだ。そのことをよく弁えておかなければならない。

 私たちは憲法を擁護する、憲法の基調が、平和主義であり、国民主権であり、基本的人権の尊重しているからである。(文責:児玉繁信)

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