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ドゥテルテ政権、アメリカとぎくしゃく? [フィリピンの政治経済状況]

ドゥテルテ政権、アメリカとぎくしゃく?
ーアメリカの影響力低下ー

1) ダバオのテロ事件

ドゥテルテ2.png
<ドゥテルテ大統領>

 フィリピン第三の都市ダバオ中心部で9月2日夜、爆弾が爆発し14人が死亡、67人が負傷する事件が起きた。3日、アブ・サヤフが犯行声明を出した.。ドゥテルテ大統領はフィリピン全土に「無法状態宣言」を出して、犯人の逮捕、同種事件の再発防止、アブ・サヤフの壊滅に徹底的に乗り出す方針を表明した。

 6月30日の大統領就任演説で示した「過去は過去として忘れよう」というドゥテルテの新方針に基づき、7月25日には「我々は平和を求めている」と施政方針演説をおこない、反政府各組織に停戦を呼びかけ和平交渉の開始を求めた。

 この背景には、経済発展するフィリピンにとって、マニラ周辺だけではすでに限界であり、ミンダナオを含めた地方の発展が必要であるとという、ドゥテルテの判断がある。そのためには国内治安問題やテロ問題を「過去を水に流してとにかく和平にこぎつけ」る方針なのである。それは国民の多くが望むとともに、フィリピンの資本家層の要求でもある。他方で、ドゥテルテ政治の「最大の課題」である「麻薬問題解決」をテーマに、劇場型政治ショウを行い、支持率を高めるために全力投球したいとの考えがあった。

 紆余曲折があったものの新人民軍は和平交渉に応じる姿勢を示し、ノルウェーのオスロで5年ぶりに再開した交渉の末、8月26日には「無期限停戦を盛り込んだ共同声明」の発表にまで漕ぎつけた。

 これに対しアブサヤフは一向に停戦の呼びかけに応じる気配をみせず、8月26日にはミンダナオ地方のスルー州パティクルで国軍と大規模な交戦が勃発、アブ・サヤフの戦闘員19人が殺害される事態となった。アブ・サヤフは依然として外国人を含む10人以上の人質を拉致しており、前任のベニグノ・アキノ政権下では米軍と共同で掃討作戦を実施したこともある。

2)テロ事件の意味

 誤解してはならないのは、アブ・サヤフは、イスラム、およびイスラム教とは何の関係もない。アブ・サヤフ自身は、ISと関係があると自称しているが、実際にはアルカイーダやIS同様、アメリカの好戦派やCIAに育成され、雇われたテログループであり、今回のテロ事件もアメリカ政府内の好戦派の指示によるものだろうと推測される。ドゥテルテもアメリカの「意図」に気づいているだろう。これまで何度も、テロ事件を起こしてはアメリカ軍が介入してきた。彼はそのやり口をずっとダバオにいて見てきたのである。

 ドゥテルテ新政権が発足してすぐに、しかもドゥテルテがダバオに滞在しているその時を狙ってテロ事件を起こせば、新政権は何らかの対応をしなければならない。しかし、テログループを逮捕し壊滅させるのは容易ではない。したがって、テロ事件は掃討作戦実施を名目に、米軍がミンダナオに進駐する政治的理由をつくったのであり、新政権にアメリカ政府から共同掃討作戦の打診があったはずなのだ。ドゥテルテをアメリカ政府の影響下に引き込むための見え見えの策である。

 しかし、アメリカ政府の「もくろみ」は、なかなか思い通りには進んでいない。ドゥテルテに対し、影響力を行使できていない。

3)ドゥテルテによるオバマ侮蔑発言

 ドゥテルテ政権は、麻薬の密売人は即、殺しても構わないとする強引な麻薬撲滅作戦を実行して
おり、大統領就任から6月30日までに、警察によって殺害された麻薬の密売人は2,000名を超える。法律によって裁かない超法規的殺人であり、明白な人権侵害である。すでに国連やアムネスティなどから批判を受けていた。ドゥテルテ政権の無法な殺人は許されることではない。

 この件で、東アジア首脳会議(EAS)首脳会談において、オバマ大統領から批判されると察知したドゥテルテ大統領が、事前の記者会見での記者の質問に、オバマ大統領をさして「くそったれ(son of a bitch)の意見は聞かない」と発言したという。そのことで、今回の米比会談がキャンセルとなった。もちろん翌日には、フィリピン政府はオバマ大統領個人を侮蔑したのであれば後悔すると声明し、米比会談は後日開かれることになった。

 麻薬撲滅をテーマとしたドゥテルテ政権の「劇場型政治」は、今のところ国民から高く支持されており、この高支持率がドゥテルテの政治的基盤であるので、自身の政治スタイルへの批判に、我慢がならなかったのだろう。

4)ドゥテルテの発言内容

 いくつかの報道をみたが、ほとんどは「オバマ大統領へ侮蔑発言を行った」と書くだけで、発言内容を伝るものは少なかった。マスメディアのこのような姿勢は、情報操作にほかならない。探した限りでは読売新聞9月7日、ハンチングトン・ポストが発言内容の一部を伝えていた。

<ドゥテルテ大統領の発言要旨>(9月5日、ダバオでの記者会見で)

 「フィリピンは属国ではない。私はフィリピン国民だけに答えるが、彼(オバマ大統領)は、何様だ。我々が植民地だったのは遠い昔だ。私の主人はフィリピン国民だけだ。敬意がしめされなければならない。質問や声明を投げかけるだけではいけない。米国はフィリピンで多くの悪事を働いてきたが、今まで謝罪したことがない。米国は我が国を侵略し、我々を支配下に置いた。裁判なしに人を殺してきたひどい記録が皆にあるのに、なぜ犯罪と戦うことを問題視するのか。」(読売新聞、9月7日
 「私は独立国家フィリピンの大統領だ。植民地としての歴史はとっくに終わっている。フィリピン国民以外の誰からも支配を受けない。一人の例外もなくだ。私に対して敬意を払うべきだ。簡単に質問を投げかけるな。このプータン・イナ・モ(くそったれ)が。もし奴が話を持ち出したら会議でののしってやる」(The Huffington Post、9月6日)

 発言内容を見れば、「プータン・イナ・モ(くそったれ)」以外は、それほど問題ではない。むしろ、独立国家フィリピン大統領を、支配しようとするな!植民地のように扱うな!と言っており、長年にわたるアメリカによるフィリピン社会の支配に対する反発、怒りが直截に表現されている。

4)ドゥテルテ政権の外交方針、ぎくしゃくする米比関係

 前のアキノ政権は親米でアメリカ政府の言いなりだったが、ドゥテルテ大統領は米国一辺倒だった政治外交経済関係を改め、中国と関係改善し、さらなる経済発展のため中国資本の投資を呼び込みたいと、当選前に公言していた。これまでの外交方針をあらため、中国とアメリカを天秤にかけると表明したに他ならない。そして現在までのところ、確かに天秤にかけている。 

 アメリカ・オバマ政権からするならば、アキノ政権を使って南シナ海問題で国際仲裁裁判所に訴えさせ、中国へ圧力をかけるキャンペーンを行ってきたわけで、侮蔑発言をしたからと言ってドゥテルテ政権と関係を断てば、米比間の協力関係に悪影響が及びそうだし、それ以上にフィリピン政府を中国側に追いやってしまいかねない。

 ドゥテルテ大統領が、「アメリカからの投資はあまり見込めない。これからは中国だ」と公言したり、麻薬撲滅作戦での超法規的殺人へのオバマ大統領による批判に噛みつく、こういう事態が起きている。

 このようなことは、これまでなかったし、想像さえできなかった。明らかにアメリカの影響力、支配力が弱まっている。「アメリカ人はけっして好かれてはいなかった、力を持っているし金を持ってくるから、ニコニコ歓迎していたが、そうでなくなれば用はない」というわけだ。

 ドゥテルテ大統領の「反米感情」が、どこに政治的基盤を持つのか不明なところがあるし、それゆえどれほど確固としたものか、測りかねるところもある。支持できないところもある。ただ、そこに東アジアの政治経済秩序の新しい変化が現れているのも確かなようだ。(9月8日記、文責:林 信治)
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